2012年05月11日

もし現役首長が「知り合いのスーパーハカーが黙ってないぞ」と言いだしたら

上記の件でまず面白いのは、セキュリティというかプライバシーの問題なのにそれに市長が二重の意味で気がついてないという点。ひとつ目は「貸し出し記録は個人情報だと思ってない」というところで、それは以下のように語っていることからもすぐわかる。

これ個人情報だって名の下にね、全部廃棄してたんですよ。なんで本をね、借りるのが個人情報なのか、って僕なんか思いますので

(中略)僕はもう、元々、何を借りたかっていうのは、なんでこれが個人情報だ!って思ってる

高木浩光@自宅の日記 - 武雄市長、会見で怒り露に「なんでこれが個人情報なんだ!」と吐き捨て

ふたつ目は「プライバシー問題で突っ込まれた」ということ自体に気がついてないという点で、当人としてはどうも「産総研という国の手先から地方行政改革潰しを仕掛けられた」と思い込んでるようだ。これは以下の発言あたりがわかりやすい。

また次のような的外れな要求をしてしまうのも、プライバシー(セキュリティ)の問題だと根本的にわかってないからだろう。

これに関しては「専門外のことは語れない」「脅迫されている」と真っ当な理由で断られているのだが、もちろん理解できず“逃げた”と言いだしてそのまま勝利宣言。端から見れば愉快な人状態がなおさら際立ってしまった。

普通に考えれば“多くの国会議員や上司に報告する”と言いつつ“脅迫など一度もしたことない”などと返すのはアホすぎるダブスタにしか見えない。ところが本人にとっては「(国の組織に)パワーゲームが仕掛けられた」としか理解してないから、同じ土俵で戦ってるつもりなのだろう。それどころか「強大な国 vs 小さな自治体」という脳内対立になっていて、「自分はむしろ弱者である」という感覚すらあるのかもしれない。まあどっちにしても挙動から推察すると突っ込まれた記事の中身はまったく見ておらず、興味があるのは発言者の肩書きだけのようだ。

「兄貴の友達の親戚の知り合いのはす向かいにある行きつけの床屋の息子のスーパーハカーが……」

この揉め事を見ていて思い出したのが、掲示板なんかでエキサイトすると「友達のスーパーハカーに頼んでお前の住所氏名(略」とか言い出す古典的なネットの愉快な方々。もちろん根本的に違うのは今回これを言いだしてるのはいい年こいた成人であり、氏名年齢所属経歴顔面を全部公開してる公人であり、しかも紛うことなき権力者の首長であるところ。夏休みの中学生がスーパーハカーを持ち出すなら懐かしの微笑ましい光景だが、大人どころか権力者である市長が同レベルでやり出せば中二病や痛い人レベルの話ではない。それこそパワーゲームだ。

そもそもこの人、「日本ツイッター学会」とか「日本フェイスブック学会」とやらを自分で立ち上げて自分で会長を名乗っている。大概こういう「それっぽい名称の団体を自分で作ってトップを自認する」というのは怪しい組織の方か、個人ならメンヘラ方面の人や自己顕示欲が強すぎる人がよくおこなう手法。それを首長になってもやるというのはある意味凄い。

話題になるネタを提供してくれる自治体トップというとかつては阿久根市、現在進行形でも東京や大阪などがあるが、武雄市がその常連の仲間入りできるのか興味深い。個人的な予想としては、ナチュラルボーンに揉め事を引き寄せそうな体質でネットの活用を標榜、おまけに現役首長と来てるわけだからこれで終わることはなさそうだとは思うが。

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2012年04月24日

来年(2013年)いっぱいでアナログ映像出力が完全禁止される件

上の記事のような「アナログ映像出力禁止・終了」の話はたまに目にしてたんだけど、ちゃんと追っかけてなかったので細かいところは全然知らずに2012年になってしまった。もうそろそろ「先」の話でもなくなってきたので、ちょっとまとめて整理しておきたい。

そもそも「(BD機器の)アナログ出力禁止」とは何なのか

Blu-ray Discには「AACS」という著作権保護技術が使われている。この技術を策定したのは家電やコンピュータメーカー、ハリウッド系のコンテンツ企業が集まって設立した「AACS LA」という団体なのだが、このAACS LAによってAACSを扱う機器(≒BDレコーダー/プレイヤー・BDドライブ搭載機器)は「アナログ出力の機能制限ルール」が決められてしまっている。

簡単に言えば「アナログ出力からBDがコピーされるから、さっさと使えないようにしろ」というものだ。

ただこのルール、決める際にかなり家電メーカー側とコンテンツ企業側で揉めた様子。

有効なコピー防止技術を持たないD端子によるHDTV映像の出力に,最も厳しい見方を示したのが米Warner Bros. Studios社である。(中略)このWarner社の主張に対して,松下電器産業やソニーは強行に反対した。背景には,デジタル端子を持たなハイビジョン・テレビが広く普及してしまった日本市場の特殊性がある。ICT機能を義務づけると,今まで販売してきたハイビジョン・テレビを利用しても,次世代光ディスクによるコンテンツをHDTV表示できなくなってしまう。

「2014年以降はD端子への出力を全面禁止」,次世代光ディスクの著作権保護方式が固まる【訂正あり】 - 家電・PC - Tech-On!

より詳しくはリンク先の記事を読んで欲しいが、要するに家電メーカーは反対の立場だったが、コンテンツ供給側との交渉や譲歩の結果痛み分けでこんな形になったようだ。それでも叩かれるのは主に家電メーカーのようで、少しかわいそうではあるかもしれない。

アナログビデオ出力制限のスケジュール

具体的には以下のようなスケジュールがすでに決定され、実行されている。

発売時期アナログビデオ出力
2010年12月31日以前HDビデオ出力可
(販売は2011年12月31日まで)
2011年1月以降
〜2013年12月31日
480iに制限
2014年1月以降アナログビデオ出力禁止

そう、実はもう規制は去年(2011年)から始まっていて、すでに現行モデルではD端子からハイビジョン(HD)映像は出力できなくなっている。そして現在かろうじて許されている480i(D1)での出力すら禁止され、アナログ映像端子から一切の信号が出力できなくなるのが2014年というわけだ。

そして今まではもっぱらHD出力が可能なD端子(コンポーネント端子)が主なターゲットになっていたのだが、2014年からはコンポジット端子(お馴染みの黄白赤のアレ)やS端子も一切使えなくなってしまう。これが「アナログビデオ出力禁止」の正体と言える。

しかもご丁寧なことに、この「アナログ出力制限」がされていない製品は店頭などで販売を継続することもできなくなってしまう。当然メーカーは市場から(モデルチェンジという形だろうが)撤去するしかないわけで、中古を除けば「旧型モデルを買えばいいや」という方法すらもとることができない。

2011年以前に発売された製品は、これまで通りD端子やコンポーネントビデオからのHD映像出力を継続して利用できる。ただし、これらの機器を、2011年12月31日以降も継続販売する場合は、SDインターレース出力への制限が必須となるため、2012年以降はこうした製品を市場で入手するのは難しくなると予想される。

'11年発売のBD機器はアナログ出力をSD解像度に制限 -AV Watch

この「アナログ出力制限に対応した新モデル」は、恐らくアナログ端子自体が削られていてHDMIのみになっているだろう。使えないものを搭載しても無駄なコストにしかならないからだ。実際に今のBDレコーダーはD端子出力がすでになくなっているモデルがあり、具体例を出すならパナソニックの現行BDレコーダーはすでにD端子もS端子も存在しなくなっている。

これはミドルクラスの機器になるようだが、調べたところ上位モデルでもアナログ入出力はコンポジットしか存在しない。つまり現在進行形でアナログ端子全廃の動きは着々と進んでいると言えるだろう。

出力制限を受ける映像ソース

端的には「AACSを使用しているメディアからのソース」が制限対象になっている。具体的には市販のBDソフト、BD-R/RE、AVCRECで記録したDVD-R/RAMなどで、DVDビデオやデジタルテレビ放送、それをHDDに録画したものは(AACSを使用していないので)対象外となっている。

ただHDDに入っていても一回BD-R/REを利用してムーブバックしたものは制限されてしまうなど、わかりにくい点も多い。詳しくは引用した下の画像やリンク先を参照して欲しい。

アナログ出力規制の具体的な内容

アナログ入出力が全撤廃されるのはそう遠くないかもしれない

上の話を読んで「制限があるのはBD経由の出力だけなの?だったら他のソースとかTVは関係ないじゃん。何が問題なの?」と考える人も多いかも知れない。ところが事態はそう楽観できない。

前述のとおりにTV放送そのものには制限がないBDレコーダーや、同じく制限対象外のDVDも再生できるBDプレイヤーからもD端子そのものが消えていっている。ディスク再生時にHD出力ができない端子を残しておくと混乱の元になるという観点もあるのだろうが、実際はコスト削減が主な理由だろう。現在はBDレコーダーに限らずAV機器全般がどんどん値下がりしていて、ますます「中途半端にしか使えない」アナログ端子を残しておく余裕はなくなっているはずだ。

また同様に映像受信側、つまりTVのアナログ端子の減少・撤廃の流れもどんどん進んでいる。まあTVとレコーダーを作ってるのは基本的に同じ電機メーカーなわけで、それも当然と言えるかもしれない。

筆者が2011年から感じている1つの強い傾向について述べておきたい。それはズバリ,「AV機器のアナログビデオ入出力端子が全撤廃される方向に動いている」というものだ。

(中略)大手メーカー製テレビの最新モデルでは,Sビデオ入力はもちろん,「黄色い映像端子」として慣れ親しまれてきたコンポジットビデオ入力端子さえも,搭載されなくなる流れにある。また,高画質なアナログ入力端子として知られる「D端子」も撤廃の動きが強まっており,一部のメーカーからは,専用の入力アダプタ経由でしか入力できないテレビも出てきているほどだ。

そう,最近のテレビは「背面端子はHDMIだけ」という製品が増えているのである。

4Gamer.net ― 「ゲーム志向」を謳うスキャンコンバータ「FRAMEMEISTER」レビュー。充実の対応フォーマットはレトロゲーマーを救うか

個人的に嫌なのはこれで昔の機器が物理的に使えなくなってしまうこと。上で引用した4Gamerの記事で語られてるようにレトロなゲーム機はもちろん、PS2やWiiですらTVに接続する方法がなくなってしまう。もちろんかつて一時代を築いたVHSビデオデッキも同様で、デッキ自体がまだ動こうが思い出のテープが残っていようが完全に“終了のお知らせ”状態だろう。

古いAV機器というと大概は「動く/動かない」とか「消耗品がまだ残ってる/残ってない」あたりが問題になったが、今や「TVに繋ぐ方法がある/ない」という事態が目の前まで迫ってきているわけだ。

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2012年04月23日

実名を全力で晒しながらネットで放言を続ける人達

「ネットの匿名発言は無責任なものばかり。実名を公開して発言すれば、発言に責任感が生まれ質が向上し荒れることもなくなるはずだ」という耳にタコができるほど昔から繰り返されてきた言説がある。これは「責任感」という呼び方すると実態がよくわからなくなってしまうが、「リスク」と言い直せばわかりやすい。

要するに実名という個人情報を晒していれば発言が人間そのものに即座に紐付けされるため、オフラインの評判や評価に直結する。それにより“自分自身(の評判)を守る”というインセンティブが強く働くため、リスク回避のために自然と不用意なことをしなくなるはずだ、というのが「名前を晒せ」という意見の意図するところだろう。(もちろん「何かあった時に名前が書いてあれば追い込みやすいから」というのもあるだろうが。)

ところが実際はそう簡単な話になっていない。実名(あるいは職業上の名前)を出していようが、所属を晒していようが、居住地域や経歴すら公開したFacebookと連携していようが、デマや放言を広めることを何ら躊躇せず、平常運転のように平気で繰り返すアカウントがいくらでも観測できる。しかも指摘されて直すどころか良くて無視(Block)、悪ければ罵倒や工作員扱い。しまいには勝利宣言すら繰り出してしまう場合すらあって、これじゃ「匿名の放言と何が違うんだ」という話になってしまう。これは2011年の震災後ならTwitterあたりで誰にでも観測しやすくなったが、以前ならmixiで個人情報を垂れ流したまま暴言や犯罪自慢をするのがよく話題になった。

この「個人情報を晒してリスクを取れ」という意見、多分以下のような場合はまったく効果がないということだろう。

  1. (たとえ一般的に放言と判断されるレベルでも)自分の発言をリスクのある行為だと思っていない。あるいは多少思っていても実害が実質的に存在しない。
  2. 放言やデマを流した方が商売上都合がよい。つまりメリットがデメリットを上回る場合。
  3. 自分の行為は正しいことであり、文句を言ってる奴は馬鹿な低能や工作員なのだと考えている。いわゆる本来の意味での「確信犯」。
  4. 内輪のルールが外部のルールより優先されるクローズドな、あるいは特殊な状況。

またそれとは別の方向で「名前を出しているからこそ間違いを絶対に認め(られ)ない」と思われるような行動も、(上の理由に比べれば少ないが)観測できた。これは企業が不祥事を起こした時に、広報やプレスリリースなどで「我が社は悪くない。むしろ被害者」的なアピールを全力ですることがあるのと似ているかもしれない。企業の場合は訴訟対策もあるのだろうが、個人の場合は「引っ込みがつかない」とか「間違いを認めることで名前に傷がつくことが許せない」という理由の方が強そうな感じではある。

まあいずれにしても「リスクがあるからやらないはずだ」という理屈は「リスクかどうかわからない」とか「そもそも(名前を晒していようが)リスクがない」という人間や、あるいは「俺は真実に目覚めた正義の味方であり、反対する奴らは悪の手先である」と考えるタイプには通用しない。もちろんそれは以前からそうだったと思うが、昨今の「各種ソーシャルサービスで個人情報をバンバン公開しちゃおうZE!!」ブームでより一層明らかになったのかな、と下の記事を見ながらぼんやり思った。

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